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Vol.14 No.3

電動車両関連
清水 健一
Ken-ichi SHIMIZU
編集委員、早稲田大学
Editorial Committee, Waseda University

講演紹介(1)燃料電池自動車

 電気自動車の価格は下がってきてはいるものの、燃料電池自動車は”初期採用者”の購入を期待出来るレベルには遠く及ばず、普及には大幅なコスト低減が必須となっている。
 石川ら(1)は従来製品に対してコストを1/3に抑えつつ2倍の耐久性を持つ量産FCスタック(多種多様な用途を前提とした汎用FC)について報告した。従来、発電ユニット(UEA, Unitized electrode assembly)製作やBipolar plates(セパレータ)との一体化を樹脂シールしてきた部分など製作の連続性を損なう部分を無くして、連続的に一気に製作できる構造にしたこと等によりコストダウンを図っている。UEAはガス拡散シートに電極(白金合金触媒)と電解質膜を連続して塗布するが、塗布膜厚の制御性が良いことから、従来の40%減厚みとし、コスト低減を図っている。Bipolar platesとUEAの新旧対応を図1に示す。単位セルを積層したスタックは図2のように各UEAを均一に冷媒で温度制御することと、セルのアスペクト比を温度むらの生じにくい正方形に近い値としたことで、耐久性の向上につながっている。

 尾崎ら(2)は、このスタックによるFCシステムについて述べた。量産プラグインHEVに搭載することで車両の開発コストを抑えると同時にEV走行可能な大容量電池を利用して、FCの寿命に影響を与える状態を低減することで実運用時のFC寿命向上に配慮した制御を可能としている。表1の車両の仕様に示すように、プラグイン車として、60kmほどのEV走行が可能である。
 FCの性能と寿命を左右する膜の含水率を、従来システムでは測定したFCスタックの平均インピーダンスを基に加湿器のバイパスバルブで制御していたが、測定精度そのものに不安定さがあった。本システムでは図3の湿度制御システムで、熱交換性能の向上、供給空気の水蒸気量精度向上、冷却温度の低温化・目標相対湿度を実現するため、次の方法を採用した。すなわち、加湿器内部の水蒸気移動の数理モデルを作成し、近似関数化によってシステム制御可能なモデルを実現した。これを用いてオンボードで精度と応答性が確保された水蒸気量推定を実施した。冷媒温度を、この情報と目標相対湿度から決まる目標冷媒温度に調整することで目標相対湿度を実現出来る。加湿制御の有無による差を図4に示すとおり、相対湿度の低下をモデルで予測し、目標に制御できている。この結果、図5に示すとおり、前システムに対して動作温度の低温化と高湿度化が実現でき、長寿命化が図られている。
 低温始動時のFCの出力不足は、空気量を削減して発電ロスによる発熱増加で早期解消を図るが、生成水が凍結する0℃以下では、膜の湿度を低く制御して生成水を膜に吸着(発熱を伴う)させて凍結を回避している。走行停止後、システムの温度が低下し0℃に近づいたタイミングでこの処理を行うことで、-20℃での始動時間を従来の1/9に短縮できたとしている。低温時の暖房に関しても、図6に示すようにFCの温度制御系と暖房系が独立してクーラントヒータで制御されるが、FCの暖機が進んで所定の温度になった時点で、三方バルブで二つの回路が直列に接続され、かつラジエータが遮断されるため、FCの排熱が空調用に加わり、空調用の電力消費が低減される。この結果、-20℃での燃費が図7のように改善され、特に長距離(暖機完了後)での改善率が大きい。

講演紹介(2)蓄電システム(Liイオン電池の熱暴走/電池状態の簡易評価/鉛電池の髙寿命化)

 Liイオン電池は熱暴走の危険性を如何に抑制出来るかが、EV大量普及のキーの一つであり、これが使用履歴に大きく依存すると考えれることから、個々の使用履歴をトレースできるバッテリパスポートも検討されているほど、重要な課題の一つである。
 小鹿ら(3)は2023年春季大会で、充放電を繰り返した電池を熱暴走させるに必要なレーザ照射エネルギーが、あるサイクル数で急激に小さくなること、この時点でセル内にLi金属析出があることを紹介し、これが熱暴走の危険検出の可能性があることを述べた(4)。この状態を非破壊で推測する方法として、充電時の充電曲線解析(図8参照:正極材料・負極材料のLi吸着・離脱の開回路電位(OCP)カーブを基準に、正極・負極容量、内部抵抗等を変数として算出される電池モデルの充電電圧カーブが、セルの充電電圧カーブと一致するようにフィッティング計算を行う方法)で求まる正極容量、負極容量、正負極のバランス(Shift of operation window, SOW)、内部抵抗、セル容量(SOH)等を用いることを検討した。
 その結果、負極容量維持率と、熱暴走に必要なレーザ照射エンルギーの間に図9に示すような関係があり、負極容量維持率で熱暴走の可能性を検出できる可能性を見いだした。
 最終的には車両搭載レベルでの熱暴走危険レベル(SOS; State Of Safety)判定を可能としたいとしており、バッテリパスポートの考え方に通じるものである。(図10参照)

 森田ら(5)は、広い温度範囲(0℃、10℃、35℃の3レベル)と放電率(各温度毎に異なる4レベル)での充電試験/放電試験(放電は一律に2段定電流放電)を実施し、前述の充電曲線解析による方法の妥当性を確認した(精度確認のために各状態で2または4セットの試験)。
 各温度での、放電容量と充放電効率の充放電サイクルに対する変化は、図11に示すとおりで、充電率の上昇とともにあるレベルで放電容量の低下と急激な充放電効率の低下が生じており、この変化点前後のセルを分解した結果から変化点以降で負極が銀灰色/黒色化していること、この原因が金属Liの析出や酸化生成物であることをSEM-EDX像の観察と固体LiNMR測定で確認し、SOSの判定に有効であるとしている。
 充電曲線解析によって求めた放電容量値と実測値の相関と両者の誤差は図12のとおりで、誤差は2%以下であるので充電曲線解析による放電容量値でSOSの判定が可能である。また、充電曲線解析による内部状態の推測値と固体LiNMR測定で得られた負極のLiの状態変化との整合性がとれていることからも本方法が有望であるとしている。SOSの信頼性の観点から、”要観察状態”、”使用不可状態”の具体的な判断基準の指針が今後期待される。

 EVの駆動用電池の管理は充電時も含めて車両のBMSが行っているので、電池の状態に関するカレント情報はBMSの情報がベースとなるが、この情報はあくまでも車両の運用を目的としたもので、第三者的に精度が保証されたものではない。森ら(6)は、電池の状態を直接評価する方法として実績のある交流インピーダンス法を、CHAdeMO規格の急速充電口経由で実施する図13の方法について紹介した。同規格の充電時の手順に従って電池パックの主回路をONし、開路電圧を計測後、1kHzの正弦波を電池に印加し、電流、電圧の応答からインピーダンスを算出し、主回路をOFFにして終了するもので、これらに要する時間は約1分である。電池の製造、検査等で同様の試験が実施されていることから、これらとの対比や、使用を想定している整備分野での情報蓄積により信頼性の向上を図ることを想定している。種々の車種を扱う分野でのテスタ的な用途を想定しているものと理解した。

 EV駆動用の電池ではないが、補機用電池を始めフォークリフト用電池など広く利用されている鉛酸電池の寿命延伸は、コストの低減だけでなく、省エネの効果が期待できる。木村ら(7)は、カーボンナノチューブを極板にコーティングすることで、劣化鉛電池の再生/寿命延伸を可能とする方法について紹介した。カーボンナノチューブは液体に混合しても容易に凝集し、工業利用を困難にしていたが、拡散剤を用いた特殊製法により、液体内に質量で0.2%のカーボンナノチューブを安定して拡散させることが出来た(この液をCNT溶液と呼ぶ)。図14にCNT溶液と、凝集する一般の液を示す。
 希硫酸溶液と鉛による正/負極で構成される簡易鉛電池を用いて、充電によって硫酸鉛結晶が生じた状態と、これにCNT溶液を加えて充電することでカーボンナノチューブをコーティングした状態での開放電圧と放電電流を比較し、後者が電圧で7%、電流で50%改善され、これが、硫酸鉛結晶上にメッシュ状にコーティングされたカーボンナノチューブ(図15の電子顕微鏡画像参照)の効果であることを確認した(炭素粒子が硫酸鉛結晶の還元反応を促進することは既知)。
 劣化が生じた電池(バイク用、大型トラック用、フォークリフト用の各ベント型鉛電池と、乗用車用のメンテナンスフリー鉛電池にCNT溶液を加えて、その効果を確認した結果、大型トラック用を除いて容量回復と内部抵抗の大幅な改善が確認できた(大型トラック用も効果があるものの、車両の充電システムの影響で効果の発生が緩やかであるとしている)。

講演紹介(3)バーチャルグリッド

 太陽光発電は、需給バランスの不一致により電力会社が買い取らない等、無駄になるという課題も生じている。
 中川ら(8)は、家庭や職場単位に設置したPVで発電したエネルギーを、EVの電池、固定電池およびヒートポンプ給湯器で保存/消費の調整を行うバーチャルグリッドの効果について発表してきた(ER Vol. 11, No. 1 13でのJSAE 20206218の紹介参照)。今回、この研究の一環として、勤務先と自宅(岐阜大学官舎、片道4.5Km)に前述のセット(図16:PCS以下はDCリンク)を設置して1年間の実生活下での実証試験結果について紹介した。自宅でのエネルギーマネジメントはPV出力をできるだけEVへ充電することのほかは、条件無しで利用者の有利を最大にする制御によっている。勤務先でのPV出力からの充電については通勤手当相当分を別扱いにするなどの処理をした上で設備投資額の回収年数等についても検討している。
 月ごとの電池への充電量と放電目的の内訳を図17に示す。充電は自宅PVが主体で、消費先は家庭での消費が主体でEV走行への消費は少ない。平均15%がロス(大半が充放電ロス)となるが、最終的に40%が余剰電力として売電されている。前年の消費から推測した生活のために従来システムで消費したエネルギーと当該年度のCO2排出量を図18に示す。この結果、実証試験でのCO2削減率は94%と従来のシミュレーションの78%を大きく上回るが、この差はエネルギーの貯蔵の最適化によるものとしている。運用時の経済面での経済的効果はあるものの、V2H設備の償却には9.3年かかり(定置型蓄電池無しの場合:7.9年)V2H設備費用の低減が重要である。また、EVの電力を生活のために消費する際は1kW以下の低負荷が長時間継続するため、BMSの消費電力(約150W)が無視できない大きさとなり、結果としてEVの充放電の効率が61%と低いことが問題であるとしている(CO2削減の観点では問題ないが、自然エネルギーの有効利用という面では改善が必要としている)。

 DCリンクのV2Hを含むシステムでは、PVからの電力は電力制御装置により充電電力が制御されるが、白方ら(9)は、自然エネルギーを安価で安定してMn-Liイオン電池に充電する方法について提案した。リン酸鉄系のLiイオン電池は自己放電の多さとセル特性の不均一性から頻繁なセルバランスが必要であるが、自己放電が少なくセルばらつきが生じ難いMn系LiBでは、図19に示すように、一定電圧のモジュール電池を並列接続した上で直接充電することが可能であるとし、太陽光パネルに直接Mn-LiBを並列に接続した状態での日射量と発電電力の相関(図20)を紹介した。風力や地熱発電での可能性を確認する試験結果についても紹介している。興味深い提案であるが、蓄積された電力を使用する際には電力制御装置が必要であること、安全のためのモニタとインターロック機能が必須であることなどを考慮した上での精査が必要であると考える。

講演紹介(4)非接触充電/給電

 非接触充電は操作者の利便性と安全性の観点から期待されている一方、電磁結合方式では人体影響に関する規定が必要であるなどの課題もあり、大量普及には至っていない。さらに、搭載電池の削減が期待できる走行中給電は、構成する要素の備えるべき機能についての研究が盛んになされている段階である。件数としては後者に属する発表が多かったが、電界結合方式の実用機の紹介があり、注目された。
 阿部ら(10)は、シェアリングの電動キックボードへの充電を、手間を意識しないで実現できることを目的に、電界結合方式の非接触充電システムを開発した。図21に示すように、使用済みのキックボードを返却用のスペースに返却すると自動的に補充電を行うもので、返却時の駐車位置ずれの許容値が大きいこと、設置場所の工事を必要としないことなどの要求から、電界結合方式を選択している。対向する極板間に生じる静電容量を介しているため、地上側、カート側とも平板状の導体の付加で済み、特に地上側はシート状の設備を仮置きするだけで済むことが有効であった。また、静電容量は対向面積と対向する距離に依存するので(図22)、カート側電極に対して地上側を大きくすることで、位置ずれの許容幅(前後:±80mm、左右:±135mm)を確保している。静電容量によるリアクタンスを小さくするため、電源の周波数に高い値(6.78MHz)を採用している。構成のブロック図を図23に、カート使用時/充電時のSOCの変化を図24に示す。

講演紹介(5)電動パワートレインのPhase Change Cooling

 モータや駆動用エレクトロニクスの出力は、それらを安全な状態に維持する冷却能力によって左右されるので、冷却能力は駆動系の高出力化、高効率化のキーポイントの一つである。一般的には連続運転での出力と短時間許容される出力には大きな差がある。
 Arnoldら(11)は、開発した電動オフロードバイクと、この開発に必須の小形・軽量・高出力駆動系を実現するために採用したPhase Change Cooling(PCC)について紹介した。冷媒が熱せられた際の対流、気泡の挙動は図25のように6状態に区分されるが、PCCは対象物からの熱移動量が極端に大きくなる気泡成長域(Ⅲ)の状態を維持することで高い熱吸収を可能とするものである。モータのロータとステータの軸方向に冷媒を流すことによってコイル巻き線も直接冷却可能(図26)であるが、60℃で気化する冷媒を使用し低粘度を可能としている。連続負荷でもステータとマグネットの温度を80℃以下に維持出来ている。

 Danzerら(12)は、エレクトリックドライブについて図27に示す各選択について実験的な構成のシミュレーションを行い、温暖化防止等の法的制約やLCAを考慮したうえで、コスト評価を実施した。この中で、図28に示すように、PCCによる最大出力、最大トルクが水冷のそれを大きく上回ることから、ダウンサイジング効果で29%のコストダウンが推測出来、これが他の選択肢に比べて著しく大きいことを述べている。
 SiCインバータはWLTCの評価で5.7%の改善があるが、40%のコストアップがあること、しかし、カーボンフットプリントの点ではこの選択が必須としている。また、重量車両での複数軸車では巡行時のドラッグ削減のために2軸目は誘導機の採用(市販車に一部採用している例あり)が好ましいなど、広範な検討をしている点は興味深い。

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【参考文献】
(1) 石川 揚一、岩井川 学、内藤 秀晴、稲井 滋、吉田 弘道、室本 信義:新構造燃料電池スタックの開発、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集,No.20245042
(2) 尼崎 浩站、上野臺 浅雄、山崎 蒸、間庭 秀人、小川 隆行:新型燃料電池車用燃料電池システムの開発、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245041
(3) 小鹿 健一郎、釣賀 英樹、森田 朋和、本多 啓三:充電曲線解析を用いた非破壊診断によるバッテリの熱暴走リスク上昇の検知に関する検討、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245050
(4) レポート:自動車技術会2023年春季大会、電動車両関係、講演紹介(1)Liイオン電池の劣化と安全性評価:エンジンレビュー、Vol. 13, No. 7
(5) 森田 朋和、釣賀 英樹、本多 啓三、小鹿 健一郎:EVバッテリのSOH - SOS評価に向けた充電曲線角牟析による電池内部状態の非破壊診断の検証、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245051
(6) 森 匠、寺西 望、高橋 利道:インピーダンス計測を用いたEV駆動用バッテリの性能評価、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245302
(7) 木村 俊、佐々木 邦康、川越 健至:カーボンナノチューブを用いた鉛蓄電池の再生および寿命延長(第1報)カーボンナノチューブの安定した液体内拡散、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245047
(8) 中川 一彦、千阪 秀幸、宮川 喜一、占矢 勝彦:太陽光発電とEVを用いた家庭のカーボンニュートラルシステム実証実験 — バーチャルグリッドの有効性検証 -、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245375
(9) 白方 雅人、斎藤 眞一、久米 祐介、前菌 真司:自然エネルギーを利用した充電ステーションの検討 -Mn-LiBの効果的活用 -、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245052
(10) 阿部 晋上、本多 亮也、青柳 祐輝、黑澤 隆也、松野 和夫、水谷 豊:電界結合方式によるユーザ負担の少ないワイヤレス充電電動キックボード(第1報)、自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245181
(11) Thomas ARNOLD, Jan BOHME, Matthias KRAUSE, Mirko LEESEH, Masataka AOKI:Cool System, Lasting Power - an outstanding E-Powertrain meets MX Dirt Track, 自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245261
(12) Dr. Christoph PANZER, Dr. Stephan GUENTHER, Volker AMBROSIUS, Philipp MORITZ, Thomas ARNOLD, Tobias VOIGT, Manfred PRUEGER, Michael BARTH, Marc SENS, Heiko RABBA, 自動車技術会2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245256