TOP > バックナンバー > Vol.14 No.8 > 商用バッテリEVトラック普及事業の実際
一般財団法人環境優良車普及機構では、脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金(商用車の電動化促進事業(トラック))の補助金執行を担っている。この補助金は環境省事業で、経済産業省、国土交通省も連携している。当機構では補助金執行業務を行うと同時に、補助事業者の商用車電動化に関する課題などの調査も併せて行っている。本記事では、制度の概要と実績、補助金執行を通じて得られた商用バッテリEV(商用BEV)を取り巻く状況について報告する。なお、事業の詳細(最新の対象車両と基準額など)は当機構のホームページを参照されたい【1】。
事業用、自家用の商用車を業務に用いている方であれば個人事業主から大企業まですべての方が対象で、2030年度において、車両総重量8t以下の商用車の保有台数の5%以上を非化石エネルギー自動車とする計画の作成が必要となる。
補助対象車両は軽自動車から大型のBEV、PHEV、FCVで、環境省または当機構に事前申請が必要。自家用は車両総重量2.5t超の車両が対象となる一方で、事業用は軽自動車から大型まですべての車両が対象となる。補助対象充電設備は車両と一体的に導入された設備が対象で、普通充電器、急速充電器、外部給電設備、高圧受電設備とそれらを設置する工事費が含まれる(充電設備は令和5年度当初予算では対象外。令和5年度補正予算から対象)。
予算は令和5年度当初予算128億円、令和5年度補正予算316億円となっている。
令和5年度は、2525台(事業用2322台、自家用203台)、金額にして93億9456万3千円(事業用84億5531万9千円、自家用9億3924万4千円)の補助を行った。
187事業者(事業用96社、自家用91社)から非化石エネルギー自動車保有台数計画の提出をいただいた。図1に補助を受けた事業者から提出していただいた非化石エネルギー自動車保有台数計画をもとに、2022年度実績に対する増加率を従業員数別事業者で分類した結果を示す。BEVの導入を計画している企業は積極的に保有台数を増やす計画である。2022年度実績に対して2030年度は11.6倍の保有台数計画となっている。しかしながら、ほとんどが少数の大企業の増加率によって占められる。商用BEVを普及させるためには数の多い中小企業への導入がポイントとなる。
当機構では、アンケートやヒアリングなどを通じて事業者から商用BEVの普及の課題を調査しており、現状をまとめる。
現在、補助金を活用して商用BEVを導入している事業者は、BEVの性能でも運用に問題が生じない用途で導入を進めている。BEVの性能が不十分であると考える事業者は導入には慎重である。その理由として幾つかの課題が挙げられる。例えば、(補助金を活用しても)車両価格が高い、航続距離の不足、積載重量の減少、寒冷地域での使い勝手が悪い、国内大手の車型展開が少ない(車両総重量2-3t、8t以上の大型車)。さらに、充電設備の設置場所が限定され、車両台数を増やせない。急速充電器などの大容量の充電設備の設置や、充電器の大量設置による電力基本料金の高額化など、総合的な対応が必要な課題も多い。
商用車は、事業目的で(利益を得るために)購入されるため、経費に対して厳しい見方がなされる。図2に現状登録されている補助対象車両の基準額を示したが、基準額は、BEV価格から内燃機関車価格を引いた額の2/3であるので、仮にBEVが内燃機関車の2倍の価格である場合には、1.33倍の費用負担が必要となる。当機構の試算では、電気代が最も安いと思われる普通充電による夜間充電を用いても、燃料代との差額で追加負担を相殺することは難しい。内燃機関車同等に経費を抑えるためには、車両の調達経費の削減(地方自治体の助成金の活用、価格交渉など)、自家発電による電力経費の低減など、企業努力で経費を抑えることが必要となるが、かなり難しいのが現状であり、商用BEV普及の阻害要因となっている。
商用バッテリEVの普及には大小様々な課題があり、自動車メーカーのみでは解決不可能な課題も多いが、車両の商品力(価格、航続距離、積載重量、車型展開など)の向上が第一であると考える。日本の社会、産業を支えている商用車は無くてはならない社会インフラであり、その脱炭素化は重要である。自動車を作る側、使う側を含めた業界一丸の取り組みで、商用バッテリEVの普及が加速することを期待したい。
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