TOP > バックナンバー > Vol.14 No.8 > 走行中ワイヤレス給電の高速道路への導入費はいくら?
走行中ワイヤレス給電(DWPT:Dynamic Wireless Power Transfer)の研究開発が世界中で行われている。以前は、あまり知られていなかったが少しずつ知名度が上がってきており、各社の将来ビジョンに描かれるような時代になっている。ここではDWPTの必要性について述べ、その後、DWPTに必要な電力を基に、高速道路へのDWPT道路を導入した際のコストについて述べる。さらに、公共事業として見たときのコストとメリットを述べた上で、最後に道路の将来像について述べる。
DWPTは必要かどうかを考えるには将来のEV社会を考える必要がある。自動車がEV化した後の社会においては、ふたつの課題がある。バッテリ容量の大型化による重量増は電費悪化とコスト増とバッテリ資源確保の課題があり、そして、時間のかかる充電作業によるサービスエリアの収容量オーバーの課題がある。現在の車の10%がEVになった時、何も対策しないとサービスエリア毎に平均30~60台のEV充電設備が必要となる(図1)。
これに対する一つの解がDWPTである。DWPTはバッテリ容量を極限まで減らすことが可能である。軽量化による消費エネルギーの削減、車体価格の大幅なコスト減、リチウムやコバルトの資源確保も不要となる。また、時間のかかる充電作業を走行中に行うことで、高速道路におけるサービスエリアをEV充電設備で占拠することも無くなる。
では、DWPTに必要な電力はどの位か? DWPTに必要な電力に関しては、幾つかシナリオがある。乗用車のみとする場合、トラックのみとする場合、乗用車とトラックの共用を考えた場合等である。また、インターチェンジ(IC)に入るときの充電率(SOC:State of Charge)とICから出るときのSOCの考え方がある。ここでは、乗用車とトラックの共用を考える。また、ICから入った時のSOCは100%でICから出たときのSOCが1%でもあれば良いとする。トラックはIC近くに拠点が多い事を理由とする。この前提に立って計算すると800km走行のトラックに受電コイル3個装着し、平均22kW×3個=66kWのDWPTレーンを導入すれば走りきれる試算を得られる(図2)。トラックは4時間毎の30分の休憩が義務づけられているので、この仮定ではそこでの停車中充電を行っている。400kWh搭載バッテリにおいて終着点で100kWh残せたので終着点でのSOCは25%となった。将来の自動運転時代は荷物を載せ替え後にすぐに出発するので、ICから出たときのSOCは100%にするべきかもしれない。その時代になれば、給電区間を拡充すれば良い。
では、この前提でのDWPTの導入コストはいくらになるか。導入には設備費と工事費(間接経費込み)の費用が総額として発生する。主な費用は高圧受変電設備、高周波電源のインバータ(Inverter)を含む電源関係、送電コイル、配線がある。特に費用として大きいのが、高圧受変電設備と数が多く必要な送電コイルである。コイルの敷設率は50%としている。敷設率50%にするとコイルがある区間とない区間は1:1となる。コイルの長さを2mとすると1kmあたり250個必要になる。東京-大阪間約500kmの往復は1000kmになるため、今回の検証条件では、コイルは25万個必要になる。日本すべての高速道路に導入するとその約9倍の225万個ほどになる。設備費として円グラフで一番占めているコストが送電コイルということが分かる。このコストを下げることが重要となる。試算の結果、総額3.59億円/km程になる(図3)。コイル設計を見直すと総額2.84億円/kmも可能である。また、次世代のコイル埋設方法とコイル自体の改良のインパクトを考慮すると1億円/km以下も視野に入ってきている。
DWPTを民間事業として道路管理会社等だけに負担してもらうシナリオが現実的かどうかは議論が必要である。EV乗用車搭載のバッテリが40kWhから10kWhにできる効果があり、そのおかげでEV価格は100~200万円は安くなるポテンシャルがある。これだけ公共性の高い事業のため、導入時には公共事業として国からの支援があると導入しやすいはずである。他国に先んじて導入し、システムを上手く海外に輸出できれば、大きなビジネスチャンスになる。他の国に比べて日本はETCなどの整備が進んでいるため高速道路で費用を払う下地が出来ている。高速道路は無料という国に比べて日本は導入のハードルは低い。また有名な自動車会社も多数存在しており、その意味でもDWPT実現の下地は他国より整っていると言える。但し、DWPTの必要性を業界や国民が理解してYesという雰囲気にならないと国としても動きにくい状況が続くため、DWPTの知名度を上げることが非常に重要となる。また、一つ一つのコストを下げることも重要である(図4)。将来1億円/kmとなった場合は、東京-大阪間で1000億円の費用となる。金額が大きすぎるので似たような数字を調べると、最近のニュースでは衆議院選挙の費用が815億円と報道されている。他にも、有名なインフラ工事費では、東京湾アクアライン1.4兆円、リニア新幹線が品川-新大阪10.5兆円などの費用がある。
DWPTは闇雲に適当な場所にコイルを配置するのではなく、最適配置をするとかなり設備導入規模を減らせることが示されている。その試算では、敷設率5~10%と示されている。今回の前提の敷設率50%よりはるかに少なく、コストが下がる期待が持てる。また、今回の前提では、400kWhのバッテリで100kWh残せたのでSOCは25%という事を述べたが、DWPTによって、このEVトラックの400kWhのバッテリをどこまで減らせるのかが重要となり、今後も検討していく。
大型公共事業は、批判にさらされながらも邁進する強い意志が必要となる。アクアラインが開通した直後は、道路はがらがらで片道4000円で高額との批判があったが、今や片道800円で多くの車が通行していて多くの恩恵を受けている。DWPTも紆余曲折しながらも実現された後には同じような立ち位置となる事業になれると期待している。また、今回は紹介しきれなかったが、将来、DWPTが増えると電源として火力発電所の増設が必要という話もあるが、筆者としては、道路に沿って、もしくは道路に直接設置された太陽光発電等と組み合わせて地産地消し、発電部門と運輸部門を同時にCO2削減できる次世代道路に期待している。
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