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Vol.15 No.1

近年活躍しているエンジン
皆川 俊一
Shunichi MINAKAWA
日産エンジンミュージアム 学芸員
Nissan Engine Museum Curator

VR30型エンジン (2016年~)図1

 排出ガスや燃費の規制は年々厳しくなっており、対応する技術開発に一層の取り組みを行っている。一方で、力強さや爽快感といった運転の喜びにつながるダイナミックパフォーマンスは、特にラグジュアリークラスでは重要である。将来に渡る排気・燃費規制の動向を踏まえ、グローバルに展開可能でライバルに対し圧倒的な優位性を確保するエンジンとして開発された。 ふたつの異なる出力バージョンが存在し、標準モデルは300馬力(224 kW)、高性能モデルは400馬力(298 kW)を発生する。
開発の経緯:
 前型であるVQ37VHRはVVEL(Variable Valve Event & Lift)採用により早いレスポンスを実現していたが、その後の加速の伸びが不足していたため、早いレスポンスはそのままに加速の伸びを大幅に向上させた。低負荷域でのミラーサイクルと高負荷域での大オーバラップのバルブタイミングを瞬時に切り替えるために、吸気側は電動VTCを採用した。ライナーレス・ミラー・ボアコーティング、電制可変容量オイルポンプ等の低フリクション化技術を採用し、前型比で-30%の低フリクション化を実現した。筒内直噴燃焼システムの開発にはCFDを活用し、設計段階から最適化を行った。燃料噴射は1行程で最大3回噴射している。
主要諸元:
VR30DDTT:水冷V型6気筒ガソリンエンジン。 北米Infiniti Q50,Q60、NISSAN Z、国内スカイライン、フェアレディーZに搭載。
・Bore 86.0mm × Stroke 86.0mm。 排気量:2.997ℓ。 出力:224kW(標準),298kW(高出力) 。 圧縮比:10.3
・シリンダブロック:高圧アルミダイキャスト製。 ライナーレス・ミラー・コーティングボア(ボア表面を鏡面状に磨きあげた)。
・弁、弁機構:直動型4弁DOHC。 電動吸気VTC,油圧排気VTC。
・冷却系:マルチフロー・コントロールバルブ。
・インタークーラ:水冷式。

KR型エンジン (2018年~)図2

 地球温暖化対応から電動化が進む一方で、EVの普及にはインフラの整備等に時間が掛かり、内燃機関の熱効率の向上は不可欠である。そのような時代背景のもと、世界初の量産型可変圧縮比(VCR)機構(図3)を搭載した「VCターボ」エンジンが開発された。圧縮比を8.0から14.0まで連続的に制御することができ、エンジン負荷に応じて最適な圧縮比とすることで、動力性能と環境性能の両立を実現した。
開発の経緯:
 1998年から総合研究所にて開発が始まり、約20年の歳月をかけて完成させた。可変圧縮に不可欠なクランク軸部のリンク機構は、現代機械加工技術への信仰心のようなものがあり、日産の知見の積み上げで解決可能と考えていた。
 すなわち日産は、エンジンの基幹部品であるクランクシャフトやコンロッドの軸および軸受け加工の設計・製造に関する深い知見を有しており、この技術を持ってすればリンク機構の設計・製造も可能にすることが出来ると言う自信があった。
 アクチュエータは当初は油圧で開発を進めていたが、損失が大きいため電動化した。駆動モーターの小型化と低騒音化には約8年の歳月を必要とし、ハーモニックドライブ(楕円と真円の差動を利用した減速機)の採用により、ようやく解決した。
主要諸元:
KR20DDET:水冷直列4気筒エンジン。 Infiniti QX50、北米MURANOに搭載。
・Bore 84.0mm × Stroke 90.1mm-88.9mm。 排気量:1.997-1.970ℓ。 出力:200Kw/5600rpm。
圧縮比:8.0-14.0
・可変圧縮比機構:マルチリンク式クランクシャフト回転機構。
・弁、弁機構:直動型4弁DOHC。 電動吸気VTC,油圧排気VTC。
・燃料システム:ポート内噴射と筒内直噴システムの2系統。

PR型エンジン (2018年~)図4

 北米の主力車種であるアルティマ、ローグに搭載され、中型の実用車用として優れた性能を発揮したQR型エンジン(図5)の後継として2018年に開発した。開発に際しては当時の日産の最新技術をふんだんに採用し、出力、燃費、排気、音振性能の向上を図った。
採用された世界初技術:
・樹脂吸気マニフォールド:外部からの熱伝達を抑え吸入空気温度の上昇を抑え、耐ノッキング性を改善し出力を向上した。
・排気カムの油圧式中間ロックVTC:排気マニフォールド一体型シリンダヘッドとの組み合わせによりSULEV30規制をクリアした。
主要諸元:
PB25DD:水冷 直列4気筒ガソリンエンジン。 北米アルティマL34型に搭載。
・Bore 89.0mm × Stroke 100.0mm。 排気量:2.488ℓ。 出力:140 kW/6000 rpm。 圧縮比:12.0。
・シリンダブロック:アルミ鋳造製。 ミラー・ボアコーティング。
・シリンダヘッド:アルミ合金鋳物製エキマニ一体。
・燃料系:筒内直噴システム。
・排気系:後方排気。 クールドEGR。
参考)QR25DE
・Bore 89.0mm × Stroke 100.0mm。排気量:2.488ℓ。 出力:134 kW/5600 rpm。 圧縮比:10.3。

BR型エンジン (2019年~)図6

 日本の軽自動車は、独自の規格に基づきながら環境性・経済性において高い性能が求められる。また、軽自動車の販売シェアは新車販売の半数近くを占め、日本の自動車産業を支える重要な商品である。この要求に応えるべく、日産自動車として初の軽自動車に特化したエンジンを開発し、小型軽量ながら高い動力性能、音振性能、燃費性能を達成した。SM21型モータ(出力2.0kW/1200rpm)とLiイオンバッテリを組み込み、回生およびアシストを行う「スマートシンプルハイブリッド」も同時開発された。
開発の経緯:
 日産の軽自動車は、当初は三菱自動車やスズキ株式会社等からのOEM供給であった。2017年、NMKV(日産自動車と三菱自動車の共同出資による合弁会社)で軽自動車を開発し、エンジンはNMKVからの開発委託により日産にて開発された。ロングストローク化、ノック改善、ガス流動強化等により熱効率を改善し、メカニカルフリクション低減等により前型に対して、自然吸気で9%、過給で7%の燃費向上を達成した。
主要諸元:
水冷直列3気筒ガソリンエンジン。 デイズB40W型搭載。
・Bore 62.7 × Stroke 71.2mm。 排気量:0.659ℓ。 出力:38kW/6400rpm。 圧縮比:12.1。
・シリンダブロック:高圧アルミダイキャスト製。
・シリンダヘッド:アルミ合金鋳物製エキマニ一体型。
・弁、弁機構:バルブリフタDLCコート(Diamond-Like Carbon:表面にナノレベルの薄膜を形成。 カムロブ鏡面仕上げ。
・クランクシャフト:鏡面仕上げ。
・燃料システム:デュアル・インジェクション。

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