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Vol.15 No.2

ディーゼル燃焼I
下田 正敏
Masatoshi SHIMODA
本誌編集委員
JSAE ER Editorial Committee

講演紹介(1)

 宮下ら(1)は「噴霧の干渉がディーゼル燃焼に及ぼす影響(第1報)」と題して講演を行った。筒内に噴射されたディーゼル燃料噴霧は周囲空気を取り込みながら発達し、やがて着火に至り噴霧火炎を形成する。その過程においては、図1に示すように1. 噴霧火炎面側へ向かう空気導入の流れが隣接する噴霧火炎のそれと衝突する(エントレインの干渉)、2. 噴霧火炎はピストン壁と衝突し壁面に沿って発達後(壁面の干渉)、3. 同様に発達した隣接する噴霧火炎とも干渉する(隣接噴霧火炎間の干渉)。
 そこで本研究は、エンジン内において、1. エントレイン、2. 壁面、3. 隣接噴霧火炎間、の3種の干渉がそれぞれどの程度寄与度をもって燃焼に影響しているかを明らかしようとする非常に意欲的な研究である。干渉影響の評価の方法として、燃焼室内径(図2)、ノズル噴射方向(図3)を変化させた4パターンの燃焼を比較する事で、干渉影響を評価する。図4にその概略図と各干渉の分離方法を示す。
 Aは、ベースとなる干渉の影響を含まない状態である。Bは不均等なノズル配置により、エントレインの干渉影響が含まれた状態となる。Cは、燃焼室内径を小さくすることにより、壁面の干渉影響が含まれた状態になる。Dは、エントレインと壁面に加えて隣接噴霧火炎を含んだ状態になる。
 次に図5図6に噴射圧力135MPaにおいて、燃焼室径とノズル噴射方向を変化させた場合の熱発生率の比較と筒内輝炎の可視化映像を示す。図5(a)の熱発生率は、図4のパターンAとBの比較であり、エントレインの干渉影響を比較している。エントレインが干渉することにより、拡散燃焼初期クランク角3度ATDC付近から燃料噴射終了時までの期間で不均等ノズルの熱発生率は均等ノズルよりも低くなり、干渉領域が広い不均等2は1より低下量が大きい。図6の同期間であるクランク角5度ATDCから8度ATDCの可視化画像を見るとパターンBのノズルにおいてはエントレイン干渉部の輝炎先頭がノズル近傍まで発生しており、空気導入が悪化していると考えられる。また噴射終了後の10度ATDC以降でも熱発生率に差がみられるが、これは燃焼室内径80mmとした場合においても噴霧火炎が壁面に衝突し、パターンBにおいては隣接噴霧との火炎間の干渉が発生してしまうためである。可視化画像でも壁面衝突後の隣接噴霧火炎との干渉領域において輝炎が長期間滞留している様子が観察されている。
 図5(b)の熱発生率は、図4のパターンAとCの比較であり、壁面との干渉影響を比較している。壁面と干渉することにより拡散燃焼初期のクランク角3度ATDC付近ではパターンAと比べて熱発生率が低下しているが、その後の噴射期間終了時までは増加し続け、噴射終了時パターンAと概ね同等の値となっている。また噴射終了後クランク角10度ATDC以降でも熱発生率には差が見られず、壁面との干渉では後燃えが増加していないことが分かる。図6の同期間の可視化画像を見てみると、パターンCにおいては輝炎が観察され始めるときから既に噴霧火炎は壁面に衝突しており、クランク角度3度ATDC付近では壁面との干渉により燃焼が悪化していると推察される。その後、壁面に衝突した噴霧火炎は燃焼室底面に沿って発達しながら、ノズル近傍まで達している様子が観察されている。壁面衝突により噴霧の拡散が促進したため燃焼が活発になっていると推察される。
 図5(C)の熱発生率は図4のパターンAとDの比較であり、エントレイン、壁面に加えて隣接噴霧火炎間の干渉影響が含まれる。隣接噴霧火炎との干渉が追加されることで拡散燃焼初期のクランク角3度ATDC付近からの熱発生率が大幅に低下している。パターンCで見られた噴射期間中の熱発生率の増加も見られず単調に減少し、噴射終了後のクランク角10度ATDC以降においても熱発生が続いている。隣接噴霧火炎との干渉によって燃焼が緩慢になり、燃焼期間が長期化していることが分かる。図6の可視化画像からも輝炎が観察され始めるクランク角度2度ATDC付近から隣接火炎との干渉が発生している様子が観察されている。隣接噴霧と干渉した輝炎はその場に滞留し続けており、噴霧の拡散が抑制されていると推察される。
 図7に噴射圧力を変化させた場合の各干渉(1. エントレイン、2. 壁面、3. 隣接噴霧火炎間)による発熱量の変化率を示す。上段が不均等1ノズル、下段が不均等2ノズルの結果である。
 非常に困難な課題に挑戦した意欲的な研究であるが、まだ現状は実験条件が噴射量22mm3だけであり、それが全負荷条件とは思えないがエンジン作動域の中での自分の立ち位置が分からない。エンジンの作動の広いい範囲において事象の解明が必要と思われる。その方が今回の実験の立ち位置が明確になり、実際の改善策も考えやすいのではないだろうか? 希望するもう一つの検討項目は不均等ノズルの考え方である。現在の自動車用ディーゼルエンジンは多噴口化をしているが6-8噴口の範囲である。今回の不均等ノズルの噴口間角度は30度であり12噴口相当である。局所的には12噴口ノズルのデータを採取しており、エントレイン、隣接する噴霧火炎間の干渉をオーバーに見積もっている可能性もあり、今後の検討が必要と思われる。今後の研究の更なる発展を期待する。

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【参考文献】
(1) 宮下 和也、古川 伸哉、石井 義範、小澤恒:噴霧の干渉がディーゼルエンジン燃焼に及ぼす影響(第1報)、自動車技術会2024秋季大会講演予稿集、No.20246205