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Vol.15 No.4

バイオ燃料
渡邊 学
Manabu WATANABE
エンジンレビュー編集委員
JSAE ER Editorial Committee

講演紹介(1)

 岩本、田上ら(1)は「イソオクタンの燃焼特性に及ぼすアルコール燃料添加の影響に関する研究」と題してアルコール添加が熱効率に及ぼす影響を燃焼速度や可燃限界の観点から評価している。
 著者らはこれまで熱効率向上には「希薄可燃限界の拡大」「乱流燃焼特性の向上」「耐消炎特性の向上」が寄与することを報告しているが、本報告ではイソオクタンにエタノールを添加し、希薄・過濃燃焼における層流・乱流燃焼特性および消炎特性への影響を、定容燃焼器と対抗流バーナを用いた実験と解析により詳細に調べた。
 その結果、定容燃焼器を用いた実験および数値解析から、エタノールを添加することで層流燃焼速度が増加することが明らかとなった(図1)。また、希薄側でエタノール添加割合が増えるほど乱流燃焼速度の促進が見られた(図2)。
 また対向流バーナを用いた実験および数値解析から、イソオクタンにエタノールを添加することによってどの当量比においても耐消炎特性が向上することがわかった.さらに当量比Φ=0.8 において、エタノールを添加することで乱流燃焼速度・消炎時カルロビッツ数の増加が見られことから、過濃側よりも希薄側においてルイス数効果による燃焼特性向上の効果が大きいとしている。

講演紹介(2)

 安江、津江ら(2)は「エタノール,イソオクタン混合燃料の急速圧縮機を用いた高流動場における火花点火初期火炎核の形成挙動」と題して「有効ルイス数」により着火時の火炎各形成の安定性について解析している。
 燃焼挙動を表すパラメータの一つにルイス数がある。ルイス数は熱拡散と物質拡散の比で、伸張や曲率を持つ火炎に対して影響を与えることが知られている。例えばルイス数が1より小さい場合は伸張率が大きくなるにつれて層流燃焼速度は増加し、1より大きい場合は減少する。このルイス数は、単一成分燃料の場合は容易に算出可能であるが、複数成分の場合は燃料ごとの不足成分ルイス数の平均を取るなどされてきた。著者らは層流燃焼の数値計算結果から求められる「有効ルイス数(Leeff)」というパラメータを用いて解析を進めてきた。
 本研究ではエタノール、イソオクタンの単一および混合燃料に対して、急速圧縮装置を用いてレーザ着火し、OH発光計測による火炎核挙動の観測結果と有効ルイス数の関係を調べている(図3)。また混合燃料では、体積比1:1混合と、発熱量比1:1混合の2ケースを評価している。
 その結果、有効ルイス数が大きな燃料のほうが初期火炎核の面積が小さく、壁面までの伝播時間が長かった。またエタノールよりも有効ルイス数が大きなイソオクタンのほうが局所消炎が多く観測されたとしている。また混合燃料の比較では、体積比1:1混合燃料のほうが局所消炎が多かった。これらは有効ルイス数から予測される燃焼挙動の傾向と一致するとしている。

講演紹介(3)

 稲葉ら(3)は、「水素化植物油がディーゼルすす粒子の炭素結晶子サイズおよび酸化反応性に及ぼす影響」と題する発表で、基本的な燃料特性がすす粒子のナノ構造に及ぼす影響を検討している。
 著者らは本報告において、セタン指数57の軽油、セタン価55のパラフィン系燃料(CN55)、セタン価79のHVOの3種類の燃料をもちいて、単気筒ディーゼルエンジンによる燃焼試験を行い、排出されるすす粒子のナノ構造および酸化反応性を調査している。
 機関特性としては、熱効率、NOなどは燃料間で大きな差はなく、黒煙の排出はCN55とHVOは軽油に比べて高負荷で明らかに少なくなった(図4)。
 同一運転条件における各燃料のすすの一次粒子の結晶子サイズを比較すると、HVOは軽油やCN55に比べて結晶子のサイズが小さい側に多く分布しており、グラファイト化が進行していないことが明らかとなった(図5)。
 同一条件のすす粒子の酸化反応性を熱重量測定により計測したところ、酸化反応性は軽油>CN55>HVOの順に高いことを明らかにした(図6)。これはグラファイト化の進行度合いに比例しているとしている。著者らはこの原因として、すす粒子の表面成長が高温滞留時間に影響を受けるためであるとして、高温滞留時間と結晶サイズに相関があることを示している(図7)。

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【参考文献】
(1) 岩本 輝、櫟 敬太、福田 陽人、城下 優輝、加藤 智也、林田 聖大、田上 公俊:イソオクタンの燃焼特性に及ぼすアルコール燃料添加の影響に関する研究、第35回内燃機関シンポジウム予稿集、No.29
(2) 安江 凜太朗、任 方思、中谷 辰爾、津江 光洋:エタノール、イソオクタン混合燃料の急速圧縮機を用いた高流動場における火花点火初期火炎核の形成挙動、第35回内燃機関シンポジウム予稿集、No.30
(3) 稲葉 一輝、小原 瑞貴、山倉 裕己、黒島 悠、林田 和宏:水素化植物油がディーゼルすす粒子の炭素結晶子サイズおよび酸化反応性に及ぼす影響、第35回内燃機関シンポジウム予稿集、No.31