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Vol.15 No.9

電動車両関連技術
清水 健一
Ken-ichi SHIMIZU
本誌編集委員/早稲田大学
JSAE ER Editorial Committee/Waseda University

 複雑なシステムである電動車両の製品開発が盛んになっている状況を反映して、2025年度春季大会に続いてモデルベース開発(MBD)に関する発表と車両の評価にMBDの手法を取り入れた発表が目立った。ここでは、これら生産に関する技術以外の電動車両技術の興味深いトレンドに関する発表を紹介する。

講演紹介(1)車載充電器によるEVの受給電システム

 北島ら(1)は自社の第3世代のEVに搭載した受給電システムについて紹介した。自然エネルギーでの発電による需給の調整にEV電池の受給電が期待されているが、これに必要な直流ポート経由のV2Hの普及はコストがネックとなっている。そこで車載充電器に双方向インバータを採用し車載充電器経由の外部AC給電機能(V2L)を確保している(図1、V2Hと車内用V2Lは従来通り)。国内では災害用とレジャー用となるが、機能としては安価にグリッドとの授受が可能となる。
 普及のもう一つのネックは、経路充電時に充電サービス毎に異なる決済や操作による煩雑さなどで、これを解決するplug & charge(充電プラグの接続のみで充電・決済操作を完結)を提案した。現状の充電には、車両の識別、充電インフラ、決済の各セキュリティ証明書の確認が必要であるが、車両のアプリでこれらの鍵確認作業をワンストップで行うことで、プラグの接続/切断のみで充電操作が完結する。車両、充電とも秘密キーが必要な作業は工場で行われ、インターネット経由の操作は公開キーで済むことで、セキュリティ上の不安を解決している(図2)。

講演紹介(2)EVの運用を含めた地域マイクログリッドの省エネ度

 分散型自然エネルギーを地域で有効に活用する方法として、大容量電池を共有して運用するShared Energy Storage Systemが検討されている。大野ら(2)はこれにEVの電池を加えた際の運用を最適化する方法(EVが何時どこでどのくらい充放電すべきかを含めて、30分毎に消費、発電量を観察し1日先までの48ステップの最適化を実施し、最初の1ステップを実行する)を提案した。システムは図3に示すように、大規模な太陽光発電とESSの施設を中心としたコミュニティで地域外への余剰電力の売電はしない地域完結型を想定している。ここでEV運用方法を変えた3ケース(ESSからのEVへの充電を、case 1;1日1回任意のタイミングで可、case 2; 不可、case 3; 1日1回固定したタイミングで可)の効果をシミュレーションで求めている。最適化問題のラグランジュ乗数を系内の電力取引額として解釈した各caseでの支払額は、表1に示すようにEVとの充放電を規制せず最適化された条件、case 1の効果が確認できるとしている。

講演紹介(3)使用過程EVの電池状態(安全性とSOH)の推定と管理

 小鹿ら(3)は、使用過程のEVの電池の状態を非破壊で推定(充電曲線解析、ACC(4))する方法についてセル単位での検討を行ってきた。今回は、多セルで構成されるEVの組電池への応用について述べ、使用済みの組電池について実施した結果を紹介した。充電時の情報からは組電池としての特性しか得られず劣化セルの検出感度に疑問がでるため、OBDスキャンツール等で得られる車両内情報を用いたセル単位(並列接続の場合は合成値)の情報との比較(図4)を使用済み車両の電池を用いて実施した。96直列の各セルの電池特性は図5に示すようにセル容量のバラツキが少ないのに比べて負極容量にバラツキが大きいが、負極容量曲線の形状から来る影響であることを考慮すべきとしている。スキャンツールによる容量(50.6Ah)と充電器の計測値(52.3Ah)には差があり、充電時のセンサ位置の検討が必要としている。これらの電池特性値推測値の各初期値に対する比をレーダチャートにしたもの(図6)は劣化の傾向を示す指標となるとし、供試組電池は容量が40%減っているがセルバラツキは少なく、レーダチャートは(c)に属し、過酷な使用履歴がないSCIの成長による容量低下と判断出来るとしている。

 森田ら(5)は前述のテーマに関連して一部のセルの劣化によるセルバランスの悪化の影響について紹介した。BMSによるセルイコライジングがあるが、すべてのセルが劣化したセルの充電/放電終止電圧の制限を受け実効容量の制限や劣化セルの過負荷状態が生じる。この影響を組電池電圧での評価とACCによるセル単位での評価で、2組の組電池(使用済み電池7セルで構成)の充放電試験(200サイクル)で比較検討した。組電池Aは100サイクル目に1セルのみ0℃の条件下で実施し劣化を早めた。充放電試験の結果は図7に示すように150サイクル以降で容量低下が早まるが、劣化セルのある組電池Aの低下が顕著で、最終的に初期の85%まで低下している。組電池でのセルバランスの評価値を、50サイクル毎の充放電終止判断がセルによるか否かによって、セルの影響なし(レベル3)、どちらかがセルで判断(2)、充放電ともセルで判断(1)、充放電とも特定セルで判断(0)の4レベルで評価することを提案し、この条件の妥当性を、ACCで求めた各セルの電池状態から検証した。その結果、実際の容量はACC結果から求めた容量以上の低下があり、この差がセルバランスの影響であるとしている(図8)。また、ACCの結果から求めたセルバランスの評価値は容量低下が大きい部分で組電池電圧での評価値と異なる場合があるがほぼ一致しており、用途に応じて両者を選択することを勧めている。

講演紹介(4)アノードフリー全固体電池

 中川ら(6)は構造が簡単で、Li使用量の観点でも有利なアノードフリー全固体電池(図9)の耐久性を改善する取り組みについて紹介した。課題の一つである析出したLiと固体電解質間の界面接触の改善のために、標準電池セルに対して陰極集電部と固体電解質間に薄膜層を挿入した表2の仕様の試作セルa~cの試験を行った。その結果、薄膜層による接触面の特性維持によって出力特性と寿命が大幅に改善された。また、集電箔上にNiとAgを含む金属薄膜層を形成することで放電時のLi溶解反応を均一化し出力特性の改善が図られている。
 実用に必要な、温度やその他の条件を変えた際の課題については今後の課題である。

講演紹介(5)GXの“次世代駆動システム”の髙出力密度化

 板坂ら(7)は経産省のGX戦略の次世代駆動システムに要求される髙出力密度モータの開発について紹介した。小型化・髙回転速度化したモータと減速機のセット使用を前提に、a)磁気回路構造とb)冷却構造の刷新を提案している。a)髙磁束密度化と同時に髙回転時の渦電流損を低減するために、2層目の埋めこみ磁石構造をU字型にした図10に示すロータ(磁路が幾何学的に理想的)で磁束歪みの低減を実現している。磁気飽和による磁束歪みを低減するために、q軸外径側とU字型磁石内径側に空隙を設けているほか、回転に伴う磁束変動を効果的に抑制するためのN-S間位置関係にも配慮している。この結果、磁束密度を16%向上、磁気歪みを28%抑制出来ている。b)冷却は各部位の直接冷却により各部の温度を確実に規定以下に抑えることで、髙出力状態を維持するもので、図11に自社の従来機と新モータの冷却油経路を示す。従来からステータ、ロータともコイルを直接冷却するものであったが、これに加えて磁石も直接冷却している。また、コイルエンドはロータ側、ステータ側の油路末端の噴口からの冷却油で両面を冷却している。

 樺嶌ら(8)はベンチ試験でこのシステムの妥当性を確認した。効率は、巻き線抵抗の増大により銅損が増大したものの、ヒステリシス損が47%、渦電流損が63%低減し、総合損失は30%低減した。冷却に関しては、冷却油の流路長の差が主因と思われる場所による温度差が生じ、これが流量に依存する(図12)ことから、流量依存度が低減した範囲で低い流量(ロス低減)を選択して、この流量での試験を実施した。結果は図13に示すように、場所による差が生じることが明らかになったが、最も高温になるコイルエンド部の温度を抑制する条件での定格出力維持が、従来の油流量より25%削減可能であるとした。結果として、目標の8.0kW/kgを1割上回る出力密度が得られている。

 河野ら(9)はこの温度バラツキの原因を3Dシミュレーションと流路を可観察にした試験用モータによる実験で確認し、対策を提案した。試験中の流路の観察から、問題の部分で流路内に気泡が確認でき(図14)、流量の低下が推測された。シミュレーションから、図15に示すようにステータの温度に偏りが生じることを確認し、これが重力とロータの回転による影響であるとした。Hill stopや長い登坂状態での発熱を考慮して、問題となっている部分に冷却油をスプレーすることを追加し、その効果をシミュレーションした結果は、図16に示すように改善出来ることが確認できた。

講演紹介(6)配送用 超低床小型BEVトラックの市場適合性

 竹中ら(10)は都市内の小口配送用に特化した超低床小型トラック(図17)の開発内容と市場適合性の検討結果を紹介した。図18に示すように、駆動系、空調、電池温度管理系等、主要部をキャブ床下に搭載したFF駆動として、超低床を実現している。丘陵部の配送や幹線道路の流への対応に充分な範囲の動力性能に絞り、最高速も80km/hに設定し、モータを50kW、電池容量を40kWhとしコンパクト化を図った。夜間に満充電した運用を基本とし、必要に応じて日中の帰庫時の補充電で対応することを前提としている。市場データを基にした適合性確認で、日々の配送では充分な残存容量で帰庫出来た(例を図19に示す)。モータの油冷系とインバータの水冷系はラジエタが一体化され、これに空調用コンデンサを重ねた状態で一つのファンで冷却してコンパクト化を図っている。電池冷却の水冷系も空調のチラーで冷却し、コンパクト化を図っている。
 前述の残存容量に関して、夏季の電力消費が増大する傾向があるとしているが、乗用車に比べて貨物車が走行抵抗、機械損、電気損の全てでロスが大きいことから、乗用車では大きい冬季の暖房負荷が貨物車では小さいことをうかがわせ、興味深い。

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【参考文献】
(1) 北島 拓実、西田 圭佑、保坂 悠一、折田 崇一:新型BEVの充給電システム開発、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256116
(2) 大野 結人、稲垣 伸吉、鈴木 達也:EVおよび共有蓄電池による家庭・施設連携エネルギー最適化手法、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256128
(3) 小鹿 健一郎、森田 朋和、織田 俊樹、本多 啓三:使用過程のEVを対象とした非破壊診断技術によるバッテリの状態推定ーデータサンプリング方法と解析方法がSOH推定に与える影響一、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256316
(4) レポート:自動車技術会2024年春季大会、電動車両関係、講演紹介(2)蓄電システム:エンジンレビュー Vol.14, No.3 https://www.jsae.or.jp/engine_rev/backnumber/14-03/ev.html
(5) 森田 朋和、本多 啓三、小鹿 健一郎:非破壊診断技術を用いた組電池の劣化過程における内部状態(セル容量・セルバランス)推定に基づく組電池SOHの評価、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256317
(6) 中川 嵩、和泉 享兵、氏家 俊太郎、楠下 颯:アノードフリー全固体電池のサイクル耐久性向上に向けた取り組み(第1報)、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256318
(7) 板坂 直樹、河野 通治、椎鳥 寿行、野村 健太郎、平林 千典:高出力密度モータの開発(第1報) ー設計コンセプト立案と妥当’性検証ー、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256142
(8) 樺嶌 寿行、板坂 直樹、河野 通治、野村 健太郎、平林 千典:高出力密度モータの開発(第2報) ー解析と試作による性能検証ー、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256143
(9) 河野 通治、桃為 寿行、板坂 直樹、野村 健太郎、平林 千典:高出力密度モータの開発(第3報) ー冷却性能実証と設計最適化一、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256144
(10) 竹中 悠祐、植村 智史、濱井 抄太郎:ラストワンマイル配送向け 超低床小型BEVトラックの市場適合性検証、自動車技術会2025年秋季大会学術講演会講演予稿集、No.20256326