会長ごあいさつ

中畔会長写真
会長 中畔 邦雄
  • 1987年 日産自動車㈱入社
  • 2008年 同電子技術開発本部IT&ITS 開発部部長
  • 2009年 日産インターナショナル社SVP
  • 2013年 日産自動車㈱執行役員
  • 2014年 同常務執行役員 北米日産会社SVP
  • 2018年 日産自動車㈱専務執行役員
  • 2019年 同副社長
  • 2024年 同執行役副社長 チーフテクノロジーオフィサー,現在に至る

技術の多様性を拡げてモビリティの未来を牽引しよう

クルマに求められるニーズは多様化し,自動車とその技術は大きな変革期にあります.

各国がカーボンニュートラルを宣言し,欧州,中国,米国,そして日本も電動化に政策の舵を切りました.一方,内燃機関から電動化への急激なシフトにより,バッテリ等基幹部品の調達,商品の収益性と事業の持続性,充電インフラ拡充,使用済みバッテリの資源循環等,山積する課題に自動車業界は試行錯誤を重ねています.各市場での電動化シフトの道筋も未知数というのが実態です.

一方,日本の市場では,若者を中心にクルマ離れが加速しています.その背景には都市部を中心とした所有コストの負担増もありますが,所有や移動の自由の価値を伝えられていない結果ともいえます.今やクルマは単なる移動の手段ではありません.我々はコロナ禍で,仕事も含め様々な活動がどこでもできることに気づきました.クルマも,安全・快適な移動だけでなく,車外のネットワークとつながることで,仕事,SNS,情報検索,買い物,エンターテイメント等,移動中に享受できる付加価値の質を期待されています.

こうした価値を提供するために自動車に実装される技術の多様性は 10 年前とは比較できないほど進化しています.自動運転,テレマティクスを活用したソフトウェアサービスの提供や課金システム等,裾野は劇的に広がっています.それらを実現するソフトウェアや高性能デジタル半導体(SOC),センサや通信等クルマを更に知能化させる技術の重要性も増しています.加えて,電動車のカギを握るバッテリの材料,モータ,インバータに使われるパワー素子等も自動車に不可欠な技術になっています.その結果,世界中で様々な新興プレイヤーが自動車に新しい価値を付加しつつあります.

自動車の技術領域が広がる一方で,本会の会員数は頭打ちの状況にあります.様々な課題や機会がある中で,自動車技術の裾野を拡げて検討や議論を深めることが,本会の魅力を向上し,日本の自動車技術・自動車業界の競争力の源泉になると考えます.

例えば,こうした技術領域の将来について,日本 の自動車技術がどのように世界で競争に打ち勝っていくか改めて論議するのもよいかもしれません.更に,従来の自動車技術に加えてソフトウェア,センサ等の知能化技術,バッテリを含む新しい材料技術等,様々な技術領域の専門家が我々の議論に入ってくることで論点も多様化するでしょう.今後の自動車につながる様々な先進技術に関する有機的な講演や議論の場は更に本会の魅力を向上すると思います.

昨年東京モーターショーがジャパンモビリティショーと改称し,スタートアップ等様々な分野から参画し大変盛況でした.本会も 2022 年より“くるまからモビリティへ”の技術展を開催しています.こうした領域拡大の取り組みを更に深めて,本会の魅力向上に取り組んでいければと思います.

また,今まで電動化や知能化の技術は日本が主導してきましたが,欧州や中国等,国や領域で囲い込む姿勢が強くなっています.今まで以上に日本の自動車技術・自動車業界が戦っていくためには,日本として協調領域を更に拡げグローバルで技術標準化の主導権を握る努力が必要です.

学と官と産が論議を深めて協調しながら競争を進化させていく.「自動車に関わる科学技術の進歩発達を図り,もって学術文化の振興及び産業経済の発展並びに国民生活の向上に寄与する」という,本会の設立趣意を改めて深く受け止めています.モビリティ社会の未来に向けて技術の裾野を拡げて,皆様と活発に論議していきたく,どうぞよろしくお願いいたします.

※2024年6月発行 自動車技術会会誌「技術の多様性を拡げてモビリティの未来を牽引しよう」より

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